またの名をグレイス マーガレット・アトウッド

現代カナダ文学を代表する作家さんとのことですがこの作品で出会うまで存じ上げませんでした。本書は実際の事件に基づいたフィクションだそうです。

わずか16歳でご主人様と先輩メイドを殺した罪で投獄されたグレイス・マークス。一緒に逮捕され絞首刑となったマクダーモットはグレイスに唆されたというけれどグレイスは関与を否定。彼女に精神科医サイモンがインタビューする形式でグレイスの生い立ちが語られてゆきます。

アイルランドからカナダへの過酷な旅、移住、いくつか勤め先を変わりながら縫い物の腕で身を立てるグレイス。それなりにドラマチックな半生を彼女は淡々と語ります。グレイスの供述は真実なのか、嘘なのか。彼女自身も混乱していてサイモンも読者も迷宮へ…。

生まれが貧乏で人生負け組な女の子の鬱屈としたやりきれなさ、そんな日常に外の世界をもたらしてくれる行商人が来たときの心浮き立つ感じや食べることよりも多く描写される着るものに関するエピソード、彼女の人生へなぞらえて描かれたと思われる裁縫やキルト、そう言った女性だからこそ描けた部分がとても良かった。無理なくスッとグレイスに感情移入してしまう。サイモンが以外とダメ男なのも面白かった。

星4個。