真珠郎 横溝正史

 奇怪な殺人美少年真珠郎の物語。夏の湖畔を舞台としたこの耽美
な物語は「ミステリ」ではなく漢字で「探偵小説」と書きたいです。
 
 真珠郎は姿をみせたかと思うとまたすぐ陽炎のように消えて行っ
てしまいます。その美貌や不可思議さに加えてこの登場の少なさ。
主人公と我々読者はその幻影を追い求めて彷徨い、翻弄されます。
 
 その世界観と美しい言葉遣いの数々は結末を知ってからの再読に
も充分耐えます。今みたいにあふれかえるほどの新刊がいつでも簡
単に手に入る時代ではなかった昔、人はおそらく一冊の本を繰り返
し楽しんだのでしょう。
 
 文庫本にして216ページ。これだけの内容がよくぞこの分量に綺麗
に収まったものです。過不足ない分量、といいましょうか。いえ、
もうちょっと読んでいたいくらいのページ数のところでストン、と終
わってしまうところが非常に巧い。見事です。冒頭と一番最後の文章
の簡潔さもとても良いですね。一回目は先が気になるのでぐいぐい読
んでしまいますが、二度目は是非、会話部分の話し言葉の美しさなど
もかみしめながら美味しいお茶かお酒とともにじっくりと読みたい。
表紙の森英二郎さんという方の木版画も洒落ていて、読み終わっても
古本屋には売りたくない一冊です。星四つ。