黙の部屋 折原一

 美術誌編集者水島が偶然古道具屋で手に入れた無名作家石田黙の
油絵。その作家に魅了され、追い求める水島。執拗に石田の絵を入
手しようとオークションで水島と戦う謎の人物。何者かに監禁され
て絵を描かされている人物...。

 ミステリとしてのトリック、仕掛け等はまあまあで、普段折原作
品を読み慣れている人ならこの位でそんなに驚いたりはしないので
はないでしょうか。

 私にとって絵は描くものでしかなく、買ったり、飾ったり、心酔
したり、という人の気持ちが正直ピンときません。しかも表紙の絵
を見た瞬間にあまり自分が好きなジャンルの絵ではないなあ、と思
いました。ところが、随所に挿入される石田作品を物語の流れと共
に鑑賞し、オークションで競るシーンでハラハラしたり、石田黙の
人物像に思いを馳せたりしている内になんだかこの画家の絵が好き
な様な気がしてきました。それはこの作品を読んでいる間だけ主人
公に感情移入している故の気持ちで明日の朝にはこの絵どこがいい
の?と思っているかもしれないけど、絵に思い入れる人の気持ちが
味わえたことが私にはとても面白かったです。

 星3個。