火の粉 雫井脩介

 怖いです。それもホラー的な怖さではないのですよ。主人公の裁
判官が過去に仕事で関係した人物が家の隣に引っ越してきます。
「お世話になったから」と主人公の家庭に様々な親切で介入してく
る隣人。親の介護を手伝い、孫の相手をし。出かけるとなれば留守
番を買って出。あるいは車を出し。最初は感謝する主人公一家です
が、親切は次第に度を超して行き、もはやどこからどこまでが親切
なのか、悪意との境目は?そもそも隣に引っ越してきたこと自体が
・・・。疑い出すときりがありません。背筋が凍ります。こんな極
端な話じゃなくても日常で親切にかまって来る友人がちょっと鬱陶
しく感じた事とかありますよね?殺人鬼が襲ってきて、みたいなの
は「まあ、自分の周囲で実際起こることはないだろう。」と一歩引
いて読めるのですが、こういうのは実際起こらないとも言い切れな
さそうなのが何とも怖い。何度も読み返したくなる様な類の名作で
はないけれど、ぐいぐい読ませる筆力は見事。バームクーヘンを焼
くシーンが出てきますが、これがまた怖いのなんの。バームクーヘ
ンってケーキの層を一枚一枚焼くのですが、それが怪談の「いちま
ーい、にまーい」みたいで、怨念的。読了直後は「しばらくバーム
クーヘンは食べられない。」と思いました。今は余裕で食べてます
が。
 バームクーヘン三個。いや、星三つ。

[http://blogs.yahoo.co.jp/kikyosyobo/2327725.html 虚貌]
[http://blogs.yahoo.co.jp/kikyosyobo/5500533.html栄光一途]