国民クイズ 杉元伶一作/加藤伸吉画

 十年以上前にモーニングに連載されていました。その後しばらく
単行本が入手出来ない時期が有りましたが、最近愛蔵版、というか
復刻版が出ました。今までに数え切れない程の漫画を読んで来て、
時代時代で好きな作品があり、色々思い入れもありますが、本書は
その全ての中で一位。私にとっては他の追随を許さぬ傑作です。

 舞台は近未来の日本。政治、司法すべてにおいて最高の権限を持
つのは国民クイズ省。難関を突破して国民クイズで優勝すると国民
クイズ省が責任もってその優勝者の希望をなんでもかなえてくれま
す。たとえそれが人殺しであろうがエッフェル塔買収であろうが。
物語は国民クイズ司会者のK井K一。彼の元妻、元妻と暮らす娘のス
トーリーや国民クイズ省転覆を狙う過激派達、国民クイズ省の思惑、
色々なモノが絡み合って進みます。初回から非常にテンションが高
いのですが、そこから結末に向けてどんどんテンションが上がって
行きます。上がって上がって一気に物語の終末まで突っ走ります。
そして結末はもう、これ以上の終わり方はありえないと確信出来る
程巧いです。読後のカタルシスは並々ならぬものがあり、何度読ん
でも読後しばらくぼーっとしてしまいます。

 ストーリーもさることながら、国民クイズのシーンであいだあい
だに挟まれるCM、ルール説明、クイズ回答者の紹介、賞与映像、国
民クイズの歴史などのディティールも非常に濃厚で面白い。
 
 ストーリー、本筋はマキャベリ人間性論をベースにしているそ
うですが、十年以上経った今もあまり古くささを感じさせません。
(携帯電話ではなく電話ボックスが出てきたりはしますが。)人間
の本質的な欲望は景気や社会情勢に左右されないということなので
しょうか?
 
 こってりした絵で濃密に描き込まれた画面は誰でも読めるもので
はないと思いますが、あの強烈な加藤伸吉金城一紀の小説の装画
を描いている人です)の絵あってこその国民クイズなので、漫画喫
茶やブックオフで見つけて、あの絵に「ゲーッ」とならなかった方
は是非チャレンジしてみて下さい。
 
 星五つ。