楽園の眠り 馳星周

 馳星周はやっぱりすごいわ。

 期せずして最近私が手に取る本は誘拐ものが続いてしまっている
のですが、これは他の誘拐ものとは全く切り口が違って、頭二つく
らい抜きん出ている出来でした。

 馳ファンにはあまり人気がない様です。物足りない、らしい。い
やいや、私は本書は不夜城よりもマンゴーレインよりも雪月花より
もダークでノワールで救いがないと思いました。確かにヤクザの抗
争モノのような派手なドンパチはありませんが、この、ラスト。後
味の悪さ。寂寥感。物足りないとは全く思いませんでした。今まで
の作品の主人公達は、どんなに追いつめられても、結局のところ
「もとはといえば自分が撒いた種でしょ」と思ってしまう部分があ
りました。でも、今回は虐待される子供です。これ以上のやりきれ
なさがあるでしょうか。ラストも秀逸。タイトルや今までの馳作品
を読んだ知識から最悪の暗いラストを想像して挑みましたが、私の
生半可な想像よりはるかに過酷で辛い展開でした。

 虐待してしまう親、される子供、虐待されて育った女子高生、金
の匂いにむらがる大人。訴えかけたいテーマだけではなく物語自体
とそれをとりまく登場人物もとてもスリリングで目が離せません。

 星4.5個。