九月 歌舞伎座 昼の部 その一(車引)

 「車引」
 大大大好きな演目です。人情話も踊りもいいけど、やっぱりこの
テの江戸荒事に血が騒ぎます。梅王丸と桜丸が深編傘を取るまでか
なり長い間顔が見えなくて、その焦らしがまたたまりません。

 まず松緑の梅王丸に驚きました。台詞まわしに多少の粗は見えま
すが、なんだか思い切りが良い。襲名時の固さがとれてのびのびと
感じました。今の松緑で蘭平が観たいです。

 一番期待の亀治郎の桜丸。あら、なんだか地味。TVの撮影でお疲
れなのかしら、と思いましたが、否!周りを観て自分を押さえてい
らっしゃる!?今までその実力と熱演からしばしば共演者を喰って
しまうことがあった亀様。ようやく自分のオーラを押さえられる段
階に来たのでは?その証拠に地味ながらも、振り向いた時の首の角
度、目線、手のかたち、細かいところまできちんと心配りがされて
います。桜丸の動きが、まるで踊りの一幕を観ている様に美しい!
決して疲れていてパワーが出し切れていないのとは違う!感激です。

 染五郎の松王丸は安心して観ていられる、立派にお兄さん格でし
た。普段踊りや世話物を観ていると繊細な印象のある人ですが、獅
子とか松王丸なんか観てると結構力強いです。幅の広い人なんです
ね。将来寺子屋の松王丸、立派にお父様の芸を継がれることでしょ
う。楽しみですね。

 若手の舞台は楽しいです。ベテランの熟練の芸を観て目を肥やす
ことはまず一番に大切ですが、若手がぐんぐんひと舞台毎に伸びて
ゆくのを追いかけるのは最高の楽しみ。やめられません。歌舞伎通
い。