十一月 新橋演舞場 昼の部 その二 前編

勧進帳

 はじめて観たとき、この演目が何故そんなに愛され、繰り返し上
演されるのかがよくわかりませんでした。綺麗なお姫様も傾城も出
て来ないし、大道具も派手に回ったりしないし、あの人が実はあの
人だった、みたいなストーリーに面白い仕掛けもないし。しかしこ
の演目、不思議なことに何度も何度も観るにつれてどんどん面白さ
が増すのです!

 三谷幸喜のパルコ歌舞伎を観た時「これは歌舞伎じゃなくて芝居
だ」と思いました。何故ならパルコ歌舞伎は台詞で大部分が展開し
たから。本当の歌舞伎は台詞、動き、踊り、音楽、そのどれも欠く
事の出来ない、芝居よりはむしろミュージカルやオペラに近い位置
づけのものだと思うからです。

 勧進帳はCDやテープで耳から聞いているだけでも楽しいんです。
ビジュアルが無くても間が持つ位台詞と曲が優れているのですね。
いずれ全編台詞を諳んじたいという欲望を持っています。冒頭富樫
が名乗りを上げたあと、シィンと張りつめた空気の中にピィーーっ
と響く笛の音。クライマックスをもり立てる三味線と長唄。要所要
所で芝居を引き締める鼓。音楽が演劇に果たすべき役割を最大限果
たしていると思います。

 そんな風に耳だけでも楽しめるものに最高に練られて完成された
動きと芝居が付くのです。力強い弁慶の見得と六方。テンポの良い
弁慶と富樫の掛け合いも二人がにらみ合う構図の美しさで面白さが
倍増。シンメトリーな四天王の動き、きれいに転がるひょうたんの
動きの面白み。いきり立つ四天王を金剛杖で押さえる弁慶が富樫達
とにらみ合ってじりじりするあのシーンは音と動きが渾然一体と
なって、何度観ても興奮してしまう名シーンです。どこを取っても
見所満載の日本が世界に誇れる舞台だと思うのです。

 勧進帳への思い入れを語っているうちに長くなってしまったので
今回の勧進帳の感想は後半で。