半島を出よ 村上龍

 村上龍。良い仕事してます!

 事実は小説より奇なり、と言いますがそれは実際の事件を前にし
て驚きの言葉として発するものであって、やはり作家たるもの実在
の人々や事件をモチーフに創作するのであれば事実を超えて面白く
「創」らなければと思います。そのへんが桐野夏生なんかは時とし
て微妙なのです。事実を超えられていない、と思う。創り込み具合
が半端というか。

 北朝鮮。近くなのにあまりにも遠い価値観の国。強烈な国なので
小説に登場させると創り手の腕によっては素材負けしてしまう危険
性が高いのですが、本書はその点満足の出来でした。練られたス
トーリー、ドラマチックに誇張された人物像、綿密な取材と構成力。
創作とは思えない程リアルに迫って来る日本政府の駄目っぷりも面
白い。これぞプロの仕事。素材に負けない「面白い小説(フィク
ション)」です。

 この手の話で全員生存というのは不自然なので、誰を生かして誰
を殺すか、その判断が物語を甘口にも辛口にもかえてしまいます。
例えば「亡国のイージス」は最後の最後そこのところでちょっと
「甘」くなってしまったのが残念でしたが、本書はその判断もクー
ルで的確だと思いました。最後の一文もいいなあ〜。

 星5個。