彗星の住人 -無限カノン1- 島田雅彦

 島田雅彦の書く日本語は美しい。自分に合うとか好きというレベ
ルではなく絶対的に美しい。古今東西の名作を島田訳で読みたいと
思う程文章が好きな作家です。華美な装飾語や特殊な言葉遣いがな
くスタンダードに美しい端麗な日本語なのです。

 その島田が書く「危険に流転する100年の恋の遺伝子」(帯文句
より)。三島の「豊饒の海」シリーズを連想します。恋愛モノにあ
まり興味のない私でもさすがにこれは読まない訳には参りません。

 本作では文緒が行方不明の父カヲルを追う過程でピンカートンと
蝶々夫人にはじまる一族の物語に出会います。昔話を人に聞くとい
う設定なので文緒から始まって、途中アンジュの語りになったり、
蝶々婦人の物語、息子のJBから蔵人へと主体が変わってゆきますが
全く無理がなく、混乱したり読んでいるリズムを崩されることなく
場面も転換。100年という長い時間のさまざまな人達の物語の波、
渦、うねりに巻き込まれて読んでいる自分も一体となる快感。

 「日本文学の醍醐味」を久しぶりに味わいました。面白かったー!
たまにはこういうのも読まないとね。新人のミステリを多く読んで
いると文章の自分の中での許容範囲がレベルの低い方に広がっちゃ
うので、基準値を高い方にに引き上げて修正してやる必要がある。
このあと二部三部と彼等がどういう結末を迎えるのか、まだまだ一
族の物語とつきあっていこうと思います。

 星5個。