美しい魂 -無限カノン2- 島田雅彦

 一冊目は長い時間をかけて刻まれた一族の運命の渦を楽しみまし
た。

 二冊目、物語はいよいよ本シリーズの主人公であるカヲルの時代
になり、一冊目ほど長くの時間が流れません。二冊目の主軸はカヲ
ルと不二子の感情の渦です。

 前作のラストで不二子の衝撃的な行く末は示されました。その瞬
間、不二子のこの後の運命と自分が抱いていた不二子像に隔たりを
感じました。「不二子らしくない」と。

 巨匠島田は淡々としかし明確に本作で不二子の感情の軌跡を浮か
び上がらせます。あくまで主人公はカヲルで、不二子の身辺にペー
ジ数を多く割いているわけではありません。不二子の視点で直接描
くわけでもない。周囲を描くことで浮かび上がって来る不二子の思
い。お見事でした。読了した私に残ったのは不二子の決断への納得
と、その決断に納得ゆかないであろうカヲルへの共感です。遠い存
在になってしまった筈の不二子がカヲルとの逢瀬でつかの間もとの
不二子らしさを垣間見せるシーンも自然で鮮やか。

 さすが島田雅彦、とただただうなるばかりです。

 星5個。