宿命 高沢 皓司

 今日は私がミステリに次いで好きなジャンル、ノンフィクション
です。98年に刊行された本書。「よど号事件」の、そしてかの国北
朝鮮の実話はミステリ3〜4冊読んだのと同じ位の熱中度、満足感が
ありました。まさに事実は小説より奇なり、といったところでしょ
うか。
 
 ここ数年で北朝鮮の日本メディアへの露出は加速度的に増え、本
も沢山出版されました。その多くは拉致問題を扱ったものです。し
かし、ちょっと待って下さい。何か大きな事件をひとつ忘れてはい
ませんか?そう。「よど号事件」です。この事件は日本と北朝鮮
関係を読み解く上でとても重要。金正日の私生活を暴いた漫画を読
んでも、拉致問題のドキュメンタリーをテレビで見ても、よど号
件をその動機から理解していないうちは根っこの部分でいまいちす
っきりしませんでしたが、本書を読んで、かの国が「拉致」という
方法論を得るに至った経緯がなんとなく「あー。そういう発想なの
か。」と多少は解ったような気がします。この事件抜きに日本と北
朝鮮の関係を論ずることは出来ません。

 ノンフィクションは事実をそのまま書けばいいというものではあ
りません。あえて本という形で世に出すには、取材力や構成力はも
ちろんのこと、読み物としての完成度、文章力や読みやすさが小説
以上に必要です。作家が作った起承転結は結の部分が気になれば、
多少の難点があっても読み進められますが、ノンフィクションはそ
うはいきませんし、あまり読みやすくない文章でも、雑誌の記事と
して数ページ位なら読めてしまいますが、本一冊分の分量になると
きつい。そういう意味で良いノンフィクションに出会うのはなかな
か難しいのです。本書は私が出会った中でもかなり良質のノンフィ
クション。分厚いけど一気に読めますよ。

 星4.5。