魔王 伊坂幸太郎

 (中途半端だなあ)と思いました。政治的な主張を盛り込みたい
のかと思いきや、そうでもない。超能力モノくさい展開も見せるけ
れど、それ以上超能力にも踏み込まない。兄弟の魅力を生かした
ヒューマンドラマ..ともちょっと違う。で、これ、なんなの?伊坂
幸太郎は何が言いたいの?と。

 作中でもここがポイントだとわかりやすく語られる「考えろ、考
えろ」の一文。検索する能力があれば思索、思考しなくてもそこそ
こ生きて行けてしまう現代。私も普段本ばかり読んで、本を読まな
い人よりは「考えて」生きているつもりだったけど、ミステリを読
んで作者が用意した結末に納得したり文句付けたりしているだけ。
決して「考える」ってこういうことではなかったはず。ああ、そう
か。これは「考える」ことをテーマに「考え」させることを目的に
書かれた「中途半端」なのか...。

 何が伊坂幸太郎が意図した正解なのかはわかりません。でもいい
んじゃないですか?わからなくても。必ずしも結論が出なくてもい
いんですよ、きっと。考えよっと。

 10代の頃、よくわからないすっきりしない文学作品が好きでした。
当時の自分にとっての「読書」は読了が着地点ではなくスタートで
した。読んだ何年か後にふと作者の意図に気付いたり、ある作品を
読んでその作家がどんな作家、作品から影響を受けているのかを推
測したりすることが楽しかったのです。その頃の気持ちを少し思い
出させてくれました。伊坂さんって面白い人だなあ。

 謎解きがあってすっきり納得するオチが欲しい本読みさんにはお
すすめしませんが、私はこういうのもアリです。

 星3.5個。