ガラスの仮面 美内すずえ

 予約の後がつかえていて延長出来ないあの作品や返却期限が迫っている
この作品を放り出して、ここ数日読みふけっておりました。


 詳しい説明は要りますまい。連再開始から30年を越え、今尚完結せず、
しかも新巻が出るのは5年に一度ペース。出たところで大して話が進展も
しないという読者放置プレイ、究極のドS漫画。

?H3>完璧なまでの面白さ

 設定、筋立てが秀逸の面白さです。演劇の才能だけはあるものの貧乏で
恵まれない環境の主人公マヤ、お金持ちのライバル亜弓や序盤では何故か
「黒婦人」と呼ばれている恩師月影先生。芸能界でマヤを陥れようとする
敵、影ながら応援する紫の薔薇の人。ヒーローは芝居仲間の桜小路君と大
都芸能若社長の速水さんという二本立て。「少女漫画」「物語」に必要な
要素が完璧に揃っています。

 その物語に勝るとも劣らないのがマヤ演じる作中劇の面白さ。とかく作
中作や蘊蓄というものは退屈になりがちな部分ですが、若草物語に始まり
たけくらべ、奇跡の人、嵐が丘、二人の王女、忘れられた荒野、漸く全貌
が見えて来た紅天女。どれもが実際にその舞台を観たかの如く活き活きと
面白く読者を惹き付ける。美内すずえ天才、と私が思う所以です。(どう
やらガラかめとは別の作品のために練った構想を作中劇として放出してる
らしい)

?H3>その時々で違った表情を見せる物語

 2〜3年毎に定期的に読み返していますが、初読時私は小学生。既に連
載は二人の王女オーデションの辺り。自分と年齢の近い北島マヤにどっぷ
り感情移入。恵まれた亜弓さんは妬ましく、速水さんはムカつく冷血漢。
やさしい桜小路君や劇団つきかげのメンバーにホッとする。まこと正当派
な読み方をしておりました。

 中学生位から亜弓さんの満たされなさや桜小路君の報われなさが理解出
来るようになり、俄然物語が深みを増して迫って来るように。徐々にマヤ
の無邪気さに苛立ちはじめます。

 そして現在、大人になった私を最も惹き付ける読みどころは速水真澄の
心情の流れ。立場やしがらみと本当の気持ちのはざまで揺れ動く究極の奥
手男速水さん。仮面を付けているのはマヤではなく速水さんなのだ!今回
速水目線になってから何度目かの再読で猛烈に深く彼に感情移入してしま
いました。

 マヤ目線で読むとこの作品は「私頑張るわ!ストーリー」なのですが、
速水目線で読むとそこかしこでビックリする程「泣ける」のです。それも
ホロリ、レベルじゃなくって滂沱の涙!あえて憎まれ役に徹する辛さやマ
ヤが窮地から立ち直った時の嬉しさで泣けてしまう。

 初読時には考えられませんでしたよ。速水さんの気持ちにシンクロして
自分が涙するなんて。ガラかめでここまで泣けるなんて。もー、今後新刊
で速水さんにもしもの事とかあったら(あながちなさそうな話でもないか
ら恐い)立ち直れません、わたし。

 このまま今と同じペースで再読していたら20年後には月影先生に感情
移入して泣いてたりして...。それは冗談としても、そろそろ新刊出して欲
しいな〜、という希望を込めて恐れ多くもガラかめを語ってみました。


↓今は文庫で手軽に集められるけど、昔から読んでいる人間にはやはり新書サイズが馴染み深い。