暁英 贋説・鹿鳴館 北森鴻

 今年一月に急逝された北森鴻さんの未完の傑作。本書の結末と今後書かれ
たであろう作品の構想が北森さんとともに我々の手の届かない場所へ行って
しまったことが本当に残念です。


 鹿鳴館を設計したイギリス人、ジョサイア・コンドル氏の物語。コンドル
も暁斉も幸吉も魅力的で窮地に陥ると肩入れして応援してしまう。グラバー
邸のグラバーや井上馨等ああ、ここでこの人がこういう動きを、という有名
人の登場も面白い。

 してまた謎が!鹿鳴館の情報は何故残ってないのか。煉瓦街の謎と技師の
失踪の真相は、英マセソン社の、日本政府の思惑は、と謎のデパートとも言
う程次から次へと繰り出される疑問符がたまりません。
 

 明治維新の流れがコンドル氏に説明するという形で登場人物により語られ
るのだけれど、それが本当に完結で解りやすくて、自分の中でバラバラっと
散らかっていた知識が整頓された思いがしました。戦国→安土桃山→江戸と
いうのも明治→大正→昭和も繋がった流れであることは理解出来ても江戸と
明治が繋がっているということが今まで自分の中で実感としてイメージ出来
なかったのですが、登場人物が銀座の煉瓦造りの街からふと振り向くと江戸
の街並みが見える。ああ、やっぱり江戸と明治は繋がっているんだよね、そ
してその変化は相当無理感もあったんだね、と情景が自然に自分の中に浮か
びました。

 美味しそうな食べ物描写もちょっとだけ出て来ます。『辛みの効いた夏大
根の下ろしたものへ、到来物の白子干しを...』くはーっ!北森さんの描く食
べ物をもっと味わいたかった!


 星4.3個。