黄金色の祈り 西澤保彦

 直接の死因や犯人は、身も蓋もない言い方をしてしまえば禁じ手
系。だったらわざわざミステリ仕立てにしなくても良さそうなもの
ですが、その仕立てがなかったら最後まで読みとおすのがきついか
もしれません。
 
 誰しも思い当たるフシが多少はありそうな思春期の苦悩。多くの
人は適当な所で折り合いをつけて通り過ぎるその苦悩をいつまでも
引きずる主人公。これは「楽器盗難事件」や、「盗まれた楽器と共
に見つかった死体」等のミステリ要素がなければ鬱陶しくて読むの
が辛い。鬱陶しい苦悩が好きな人はこれを「青春小説」と呼ぶので
しょうか。

 読みどころは前半、中学校のブラスバンドの描写。これがもう、
ブラスバンド経験がある私にはノスタルジックで甘酸っぱいのなん
の。ああ。懐かしい。読んでいて音楽室の匂いやチューニングの音
や楽器の手触り等の記憶の奥底に眠っていた情景がうわーっと一気
に甦りました。

 学生時代にブラスバンドに所属していてノスタルジーに浸りたい
人にはおすすめ、ということで。

 星2個。