女王の百年密室 森博嗣

図書館の「一昔前の予約集中本」コーナーで某ベストセラーミステリ
を借りてきて読みまして、「なんじゃこりゃあ!こんなに都合よく犯人
がこっちの思惑通りに動くかっ!」(これ以上書くと何の本だかばれそう
なので自主規制)と腹を立てました。その気持ちを鎮めるためにずっと未
読のままとっておいた「女王の百年密室」を読んだのです。
 
 果たして、森ミステリは期待を裏切りませんでした。読了後しみじみと
「そうそう。こういうのが読みたかったのよ。」と思ったものです。私は
基本的にファンタジーっぽい物語が得意ではありません。いわゆるファン
ジーと聞いて思い浮かべる、甘い子供っぽいイメージに子供の頃から反
発があったのと、想像力が貧困なのか、描かれている情景がなかなかイメ
ージ出来ず、どちらかと言えば「何処そこ県警の捜査一課は・・・。」的
なストーリーの方が感情移入しやすくて好きだったのです。
 
 この作品で舞台になるのは「美しい女王が統治する幸福で豊かな楽園の
ような国」です。時代も未来っぽい感じはしますがいつなのかはっきりし
ません。なんとも言えずファンタジックな匂いがします。かくいう私も最
初は多少引き気味でした。しかしさすがは森博嗣。森ファンタジーはクー
ルで大人っぽくスマートで、そしてそこはかとなく美しい。さほど親切に
周りの景色を説明、描写している訳でもないのに私の中には女王の塔のイ
メージがすんなり浮かび、本を閉じても頭の中で塔の内部を散策して楽し
むことが出来る程でした。
 
 密室殺人が起こります。主人公は解決に向けて推理をします。そこから
結末まで全てが必然です。無理や無駄は一切ありません。上手く解決させ
るために犯人をこちらの都合にあわせて不自然に動かすようなこともあり
ません。詩的で静謐な文章が適度なリズムで自分の頭の中に流れ込んでく
るのは、とても幸せな時間でした。読後は美味しい良く冷えた水を飲んだ
後の様な気分です。
 
 森ファンでもS&MシリーズやVシリーズは読んだけど「女王」は読んでな
い、という人がけっこういるのではないでしょうか?勿体ないです。そし
てこれから「女王」を読めることが羨ましくもあります。
 
 単独でも、また続編含め他の森作品と合わせても楽しめる。傑作だと思
います。
 
 星・・・は五つでは足りないかもしれません。

[http://blogs.yahoo.co.jp/kikyosyobo/3647660.html θは遊んでくれたよ]
[http://blogs.yahoo.co.jp/kikyosyobo/4937479.html すべてがFになる]
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