グロテスク 桐野夏生

 某有名事件を元にしたフィクションです。実際にはいなかった人
物が登場し、かなり物語として脚色されています。この事件は大変
話題になった事件で、事実に基づいたノンフィクションも出版され
ています。併せてそちらも読むと、桐野夏生が物語化するにあたっ
てどういう脚色、味付けをしたかがよく解って面白いかもしれませ
ん。
 
 事件が事件ですし、暗いです。救いもありません。しかも長いで
す。仕事や人間関係などで凹んでたり神経が参ってる人は避けたほ
うがいいかもしれません。読んでる間中気が重く、読んだあとはそ
の世界から抜けられてホッとしました。しかし、渦中の彼女にとっ
て、これは物語ではなく現実でした。終わりが見えず、抜け道のな
い日常で、結果彼女は殺されてしまいましたが、もしあの事件がな
かったら彼女は自ら命を絶ってしまったかもしれない。そんな事を
ふと思いました。無責任な感想ですが、あの事件(死)が、ある意
味彼女には救いになったのかもしれない、とか。そういう色々な解
釈が出来る事件だからノンフィクションが出版されたり小説になっ
たりするのでしょうね。

 「ダーク」とか「グロテスク」とか最近の桐野作品、タイトルも
思い切りがいいですね。暗さもここまで潔く徹底的に暗いと逆にす
がすがしい感じすらします。中途半端に暗いと「読後感が悪い」と
か文句言いたくなりますがここまでいっちゃってると文句のつけよ
うもありません。表紙の水口理恵子さんのイラストも暗くて静かで
綺麗です。

 本書をもう一度読む気にはとてもなれませんが、桐野夏生の次作
は読みたい、と思いました。星2.5。