邪魅の雫 京極夏彦

 うふふふふ。面白かった。

 今回随分いつもとおもむきが違います。関口はドロドロと悩まな
いし、京極堂は延々何十ページも蘊蓄をやらず、憑き物落とし自体
も地味目。探偵もなかなか出て来ません。

 実際に事件を追うのは青木と益田。次々と起こる事件、ごちゃつ
いていてややこしい人間関係。エノさん出て来ねーなー、と中盤も
のすごく苛々しました。

 苛々、したんですけれども最後の最後で「うおーー、やっぱり京
極夏彦だーーー!」と驚喜。ページが残り少なくなってきて、犯人
も明かされた、でもいまいちすっきりしないなあ、と思った瞬間あ
まりにも短く的確なそして意外にも、あの人のたったひとことで、
中盤の苛々がすべて吹き飛び、犯人に憑いていた憑き物も私に憑い
ていた憑き物も落ちたのです。その一言の巧さたるや、三島由紀夫
豊饒の海四部作の四作目の最後のあの、聡子(でしたっけ?)の
ひとことに迫る勢い。あの一言も今思えば「落ちる」という形で作
用する言葉でした。

 私から落ちた憑き物はさしずめ「京極堂の新作が読みたい」とい
う名の...。そして「京極堂の次の作品が読みたい」という名の憑き
物がまた憑いたのです。ぬえーーーっ。

 星4個。