エトロフの恋 -無限カノン3- 島田雅彦

 書店でみた瞬間その薄さに「天人五衰キターーー!」と三島&島田
ファンの誰もが思ったことでしょう。長い長い物語を、この薄さで落
とす!

 エトロフって何かの暗喩かと思ったら主人公カヲル、本当にエトロ
フに来ちゃいました。ここでも島田雅彦の筆致は冴え渡り、私はまだ
見ぬエトロフの空気の色を感じ匂いをはっきりと嗅ぎました。

 エトロフへの舞台の移動とニーナの登場には、残りこれだけしか
ページがないのに新舞台に新登場人物か!と思いましたが読み進むに
つれ、物語が帰着する場所として、壮年時代のカヲルの人生に立ち会
う人としてこれよりふさわしい設定が他にあろうか、と大満足です。

 平野啓一郎氏の解説がまた素晴らしい。本当は今回三島由紀夫の豊
饒の海もからめて感想を書こうかと思っていたのですがあまりに的確
で詳しい考察を彼がしてくれましたのでもうそれ以上私なんぞに書け
ることはございませんでした。

 星5個。

 豊饒の海シリーズを再読しようと思います...が、はてどこにしまっ
たっけか。