時計館の殺人 綾辻行人

 綾辻作品からどれか一冊挙げよ、といわれたら「時計館」でしょ
うか。館シリーズの中では文句なく一位だと思っています。私は日
頃ミステリのトリック以外の部分を評価基準にすることが多いんで
す。ミステリだったらトリックは良くて当たり前。そこが良くない
と評価対象外。そしてトリックが良い作品をそれ以外の部分のキャ
ラクタや世界観、文体などで評価したいと思うので。

 しかし本書はそのトリックに心底感動しました。難点が多少あっ
てもそれをねじ伏せてしまう位の力がこのトリックにはある。それ
以外の感想がどこか行っちゃう位の驚愕。「綾辻行人って頭良い!
!」と思いました。

 トリック以外の部分でミステリを評価しはじめると、じゃあ別に
ミステリでなくても良いじゃん。というジレンマに陥るんですよ。
なにも人殺さなくても。とふと思う。この世界観とキャラクタがい
れば普通の小説でもイケる。と感じる作品も時々あるし、そもそも
本を選ぶ時点で「別にミステリじゃなくてもいいか?」と思ったり。
でも時計館のような面白くて良く出来たトリックに出会うとそうい
うモヤモヤを吹っ切ってくれるのです。「やっぱり、ミステリはイ
イよね。」と。ミステリを読み過ぎて初心を忘れがちな時に読み返
したい、そんな一冊。

 それとやっぱり、孤島や山荘と並んで「館」が好きなんですよね。
星4.5。