すべてがFになる 森博嗣

 言わずとしれた森博嗣の代表作。冒頭の四季と萌絵の会話にまず
驚かされました。萌絵だって凡人に比べればものすごく頭の良い人
物なのに、四季はそれを超越し終始会話をリードします。無駄がな
くてテンポの良い会話。最初の数十ページで森博嗣はただ者ではな
いぞ、と思いました。
 
 孤島の研究施設に天才工学博士。ウエディングドレスを着た女の
死体。ディスプレイに残された「すべてが Fになる」の文字。密室。
ヴァーチャルリアリティ。ミステリ的に興味深いアイテムがちりば
められているけれど、実は本書は四季という一人の天才の自由と孤
独の物語。犀川によって謎は解き明かされるけれどその美しい終末
は四季と犀川の物語の序章にすぎません。

 ずっとこのシリーズ、犀川と萌絵のお話だと思っていましたが、
犀川と四季の物語だなあと最近思います。トリックや動機等のミス
テリ要素も素晴らしいけれど、謎を追う事に一所懸命にならなくて
も読み物としての水準がとても高いです。ミステリとして謎解きに
精を出すもよし。会話や文体の美しさを文学的見地から楽しむもよ
し。シリーズ通して読んで人物の背景や相関図を楽しむもよし。四
季という天才について考察するもよし。色々な読み方が楽しめます。
本書を読んだ後様々な傑作を読んだけれど、これほどの衝撃を受け
た作品には未だ出会っていません。

 星5つ。