悪人 吉田修一

 うほほ〜、面白かったよ。ゆきあやさん!!早々に事件の犯人は
提示されるので、その犯人の悪人ぶりを描く物語かと思いきや...。

 私にとっての神本、山口雅也の「奇偶」を思い出しました。奇偶
では偶然と必然の定義付けから考えさせられ、それまで持っていた
価値観をかき回される面白さがありましたが、本書も何を持って
「悪人」とするのか、から考えさせます。殺人を犯した人だけが悪
人なのか?否、犯させた被害者、周囲の人間、見渡せば悪人だらけ!
でも、そんな悪人達一人一人も彼等を愛する人から見れば守りたい
大切な存在なわけで...。

 最初から引込まれ、読む速度を落とさせないなあ、と思ったら新
聞の連載小説だったのですね。毎日限られた文字数で読者を飽きさ
せずに振り落とさずに最後までひっぱってゆく手法がお見事。色々
な偶然やちょっとした嘘がからみあって事件の渦に巻き込まれてゆ
く人達や充分に読者を彼に感情移入させてから突入してゆく終盤の
あまりにも痛い恋愛逃走劇など読みどころが満載。

 過去に何か読んだときはあまり自分に響かなかった吉田修一
こんなにテクニシャンだったんだ!と驚きました。

 星4.5個。