赤朽葉家の伝説 桜庭一樹

 ああ、面白かった!!

 序盤の30ページ程は入り込めずノロノロ中断しながら読み進めましたが
万葉とタツの出会いあたりからぐ〜っと引込まれ、久々にジェットコース
ターに身を任せているかのような、物語の渦に巻き込まれて一挙にラスト
まで牽引されてゆく快感を味わいました。

 常日頃ミステリはやれトリックが、だの密室と魅力的な名探偵が大事、
だの言っていても、結局「小説」を読むことって他人の人生を追体験する
ことが醍醐味なんだな。

 本書は日本推理作家協会賞を受賞しており、一応ミステリではあるもの
の、圧倒的に面白いのは「人生」なのです。万葉の、毛毬の、そして紅緑
村という土地の、昭和という時代の、製鉄所の、赤朽葉家という旧家のそ
れぞれの「人生」(人ではないものも混じっていますがうまい言葉が見つ
からないので擬人化して人生という言葉で押し切るぞ)が二段組300ペー
ジをからみあい、うねりながら邁進してゆく、その筆の勢いには脱帽。鮮
やか、お見事、としか言い様がありません。

 受賞した際ミステリとして弱いことが問題になったとか。確かに謎は謎
として面白いけれど如何せんそれ以外の部分がぶっとんで面白すぎたので
謎はちょっと埋もれてしまった。実際作者も書いている途中大河ドラマ
押し切るかミステリ仕立てにするか迷ったのではなかろうか。

 でも、ここで文学に転ばずに謎解きを持って来て、かといってミステリ
にも転ばず語り手瞳子の青臭い悩みなどをからめてくるところがラノベ
身である作者独自の読者サービスであり、この文壇での微妙な立ち位置こ
そが桜庭さんなのかも、と思ったので、この小説はこれで良しという気が
しました。桜庭さん、凄い人です。

 星4.5個。星5(満点)でも良さそうな気がしたけれどこの人は今後もっ
と凄いものを書きそうな予感もするので上げる余地を残すためにこの点数
にしました。