夜想 貫井徳郎

 貫井さんって色々なタイプの作品が書ける人である。「慟哭」では見事
なトリックに驚愕したし、「悪党たちは〜」はスピーディーでコミカルな
展開が面白かった。「鬼流〜」の様なキャラ立ちものもなかなか良い。社
会派ありハートウオーミングもあり。良く言えば器用。悪く言えば「どれ
貫井カラーなの?」という感じ。であるからご本人は作風に迷っておら
れるのではないか。その迷いが本書では出てしまった様な気がする。

 デビュー作以来の宗教ネタ。思い入れのあるテーマなのでしょう。一人
の女子大生が望まないのに教祖に祭り上げられて行ってしまう様子は滑稽
で読みごたえがあってとても面白い。なるほど、はじまりはこんな風なの
かもなあ、と思う。

 が、それと二本柱で進んで行く娘を探す母親の物語が中途半端だった。
「慟哭」では交互に語られる二つの物語がどんどん盛り上がってラストで
ぐわっと収束する快感があったけれど、この母親の物語はしゅーっと教祖
の物語に吸収されて終わってしまった印象。雪藤の○×△も果たして必要
だったのか微妙。もちろんとても面白い作品であるからこその贅沢な不満
ではあります。

 星3.6個。