薔薇密室 皆川博子

 まだ夏ですが、今年のベスト本はおそらくこれで決定。もし本書を上回
る作品と出会えたとしてもどのみち皆川作品であることは確実でしょう。
も、他の作家さんと面白さ、満足度のレベルが桁外れに違います。
 薔薇の咲き誇る僧院で行われているのは実験か、はたまた狂気か。変わ
る視点に前後する時系列、物語の書き手は誰なのか。ポーランド人少女ミ
ルカの運命は。

 先日「倒立する〜」をベタ褒めしましたが、ジュブナイルということも
あり、一日で読めちゃったし物足りない感があったのも確か。本書は五百
余ページに渡って重厚にみっしり詰まった物語。さすがにこれなら長篇好
きさんも大満足でしょう。歴史小説的面白さ、嘆美なのにベタつかずどこ
かクールな文体、ミステリ的な落し、個々の登場人物達の数奇な運命譚、
物語の迷路を彷徨う目眩感、どんだけ私を満足させれば気が済むのだ!

 ストーリーを見失わない様に心して取りかかったつもりでしたが、途中
ちょっと混乱して人物相関図を書いて参照しながら読みました。ミステリ
的驚きは「死の泉」の方が上かもしれないけれど、複雑な物語の迷宮の様
にからみあった謎の面白さは「死の泉」のラストの驚きにも決して負けま
せん。小説ってものはここまでのことが出来るんだな〜!と驚きました。

 星5個。