深泥丘奇談 綾辻行人

 仕掛けのありそうな館も中村青司も、驚愕のトリックも出て来ないけれ
ど、面白いなあ〜!他の読みかけの何冊かがとっつきづらくて難儀してい
た時だったので、相変わらずの読み易さと掴みの早さがとても嬉しかった
です。

 深泥丘病院の周囲で起こるいくつもの怪異。記憶が混濁しすぎじゃね?
の主人公、主人公が綾辻さんを連想させる人物設定のため、どうしても小
野不由美さんをイメージしてしまう何か知っている風な妻。双子なのか三
つ子なのか?同じ顔の医者。全編に漂うモヤモヤとした「不思議」はスッ
キリした解決が必須の本格ミステリへのアンチテーゼか。

 一つ読み終わってもまたすぐ次を読みたくなり、中断することなく読め
てしまう綾辻作品の吸引力。今までそれは驚愕トリックに負うものが大き
いと思っていたけれど、本書がこれだけ面白いってことは、綾辻さんの魅
力は決してそれだけではなかったのだ!

 普段ミステリを書かない小説家はミステリを書けるとは限らないけれど
ミステリを書いている人は大概ミステリではない作品も書けるのだなあ。
そのあたりに私がここまでミステリに傾倒したヒントがある様な気がしま
した。

 祖父江さんの装丁、造本が素晴らしい。図書館で借りちゃったけど、こ
れは手元に持っていたい一冊。

 星4個。