カラスの親指 道尾秀介

 伊坂幸太郎を意識してる?と思ってしまった詐欺師コンビ達の群像劇。

 思い付かない真相だったけど、どうしても「こんな大掛かりなことを結
局のところ人はやるのか?いや、やらないでしょう」という不自然さばか
りが気になり素直に驚けませんでした。そこまでするか、いやしない。っ
て「乱鴉の島」でも思ったな...。

 この人はおそらく面白いお話を発想し、構成し、「書く」ことは出来る
のだけれど、「描く」ことが巧くないのですね。だから色んな所で不自然
さが気に障るのです。虐待や人の死などの重いネタへの踏み込み方の浅さ
を不快に感じたり、会話文の主体が解らずイラッとしたりするのも全ては
そこに起因するのではないでしょうか。

 描写力があり、読者を作品世界へ(ストーリーへ、ではなくあくまで作
品世界へ、というのがポイント)引込んでしまえれば上記の「こんなこと
するか?」といった疑問などはねじ伏せてしまえる気もするのです。

 もちろんこれだけ文句言ったり色々考えてしまうのも、常に一定のレベ
ルを越える面白さの作品を連発している人だから、という前提あってのこ
とです。道尾さんを買っている部分があるからこそここまで書くのだとご
理解下さい。面白いんですよ。ホント、面白いんです...。

 星3個。