感傷コンパス 多島斗志之

 本書を読んだらなんとなく「症例A」のラストがピンときた...。

 多島さんはたぶん「うお〜!クライマックス!大団円!パチパチパチ!
(拍手)」的な大仰な結末がお好みではないのではないか。なんというか
シュッとしてるんです。最後が。症例Aではそれを物足りなく感じてしま
いましたが、本書は不思議な余韻を残す良い終わり方だなあ、と思いまし
た。

 舞台は1955年の伊賀。小学校の教師として赴任する明子と子供達の物
語。無駄な装飾の無い簡潔な文章なのだけれど、子供達の、よそもの先生
に、近付きたいけど遠慮もある、明子の方もどうやって距離を縮めればよ
いのか戸惑っている。そんな微妙な瑞々しい距離感が伝わって来ます。タ
イトルも良いしコンパスという小道具の効かせ方も洒落てる...。

 最近多島作品を集中的に読んでいるけれど、海とか山とか外国とか色ん
な所へ脳内トリップ出来て楽しいです。舞台が幅広くて、今後どこへ、い
つの時代へ連れて行ってもらえるのかとても楽しみ。

 星3.7個。