隠蔽捜査 今野敏

 警察小説だと思って読み始めたので戸惑いました。連続殺人事件の捜査
の展開も警察内部の色々な立場の人達のかけひきも思っていたよりサラっ
と通り過ぎちゃうんです。あ、あれ?この小説の「読みどころ」は一体何
なの??

 終盤にさしかかりようやくその答えが出ました。本書は、な、なんと!

 キャラものなのです。

 主人公竜崎は東大出の警察庁キャリア。息子が有名私大に合格しても東
大じゃなきゃ駄目、と浪人を強いる様な人。あ〜。これ、駄目だわ。私の
グダグダな人生なんて全否定しそうな主人公、どうがんばっても思い入れ
られる気がしない...。

 ところが!終盤気付くとじんわりと竜崎に思い入れちゃってるのです。
竜崎の描き方が本当に巧い。彼にまつわる印象的なステキエピソードが書
かれるわけでもないのに、考えを曲げず周囲と摩擦を起こしても真面目一
本やりの竜崎の痛い位の不器用さ、真摯さにだんだんと感情移入してしま
う。こういう心の掴まれ方ははじめて。不思議な小説でした。ラストの一
文もいいなあ。

 星3.8個。

 ドラマでは竜崎を陣内孝則が演じたそうです。私の頭の中では水谷豊で
した。