歪んだ素描 太田忠司

 藤森涼子の事件簿。彼女が独立する前、一宮探偵事務所にいた頃のお話で
す。

 ハードボイルドっぽい雰囲気と文体。起こる事件は地味目。地道に関係者
に話を聞いてまわり、小さなヒントから真相にたどりつく涼子。涼子はあく
までも犯人に自首して欲しいスタンスなので静かに、穏やかに犯人と対峙す
る。

 も、ほんとに地味なんです。淡々としてる。本書では涼子がそれほど魅力
的にも思われないし。でもなんだか最後まで読まされてしまう。一遍読み終
えるとすぐ次の一遍へ進みたくなる。そんな不思議な短編集でした。

 後書きにも書かれているけれど、作者のなかで涼子という人物がきちんと
生きているのが良くわかります。決して物語の筋運びのために作者の都合で
人物を動かしていない。だから涼子に惹かれるのかもしれません。

 星3.7個。