ビート 今野敏

 今まで読んだ樋口シリーズの中で一番面白かったです。

 柔道とダンスに一生懸命な息子達、「汗は嘘をつかない」なんて真顔で
言っちゃう父親。ちょっとクサいなあ、と最初はあまり感情移入は出来そ
うにないと思ったけれど、最後には応援しつつ見守ってしまいました。

 勿体ないのは、ミステリの定石として、勘違いの間違った推理が途中な
されるけれど、まあこの設定でこれが真相ってことはないよな、と読めて
しまうので終盤の驚きが薄いこと。ああ、でも今まで読んだ今野さんの作
品は皆そうだったかも。ミステリ的な仕掛けやトリック、事件よりも、今
野さんが描きたいのは警察であり人物であり、ってことなのか。

 今野作品で本当に不思議なのは、自分が嫌いなタイプの人間でも最後に
は思い入れてしまうこと。魅力的な人間を創り出せる人なのだなあ。たと
え嘘臭くても現実にはいないタイプの人間でも、読者のハートを掴めれば
リアリティがない、なんて文句は出て来ないのよ。

 星3.7個。