私の男 桜庭一樹

 桜庭作品で一番好きかも。

 自分には受け入れ難いテーマだと思っていたけれど、全然平気でした。
禁断の関係の二人がちっとも悪びれていなくて妙にふわふわしていて現実
味がないからかな。

 過去の様々な作品もこれを書くための助走でしかなかったのでは、とす
ら思ってしまった凄まじい出来。濃密さ、湿度、倦怠感、腐臭、倒錯、い
ろいろなイメージが文面から立ち昇って来ます。父娘物としては森茉莉
「甘い蜜の部屋」に迫る出来なのでは?(←読んでないけど。爆)

 目次を見ると章タイトルに死体という単語が二回も登場するので、ミス
テリなのか、と思って読み始めました。登場するのはファザコンの花とい
う女性。花の物語なのだなあ、と読み進めてゆくうちに、本書があくまで
「私の男」である淳悟の物語だとわかって来る。そうして最終章まで読み
終わって、また第一章を読み返すと、泣けるんです。ううう。読み始め時
にはまったく響かなかった箇所にぐいぐい心を鷲掴みにされてしまう。淳
悟、淳悟、淳悟〜〜〜〜!!!(淳悟に激萌え。イメージはトヨエツ)

 淳悟の母親の描き方が中途半端な気もしたけれど、これ以上描いても邪
魔な気もするし、難しいですね。花と淳悟二人の世界に小町という女を登
場させたのは良かったと思います。本書を単なる倒錯した有り得ない父娘
の罪の告白から多少は現実味のある物語へと引き戻しているのは彼女とい
う微妙な近さにいる他者の存在だと思う。因果な人生だね、このひとも。

 装画にデュマスを持って来た鈴木成一デザイン室の慧眼にもうなってし
まった。さすが。ほんとにここの装丁はいつも良いです。

 星4.4個。