新世界 柳広司

 柳さんはハズレがないねえ〜!!

 面白いと言ってしまうにはあまりに重たい原爆がテーマの物語。

 戦争の愚かさや戦争によって人が狂気へと至る過程、原爆の描写等はそ
れだけでも読みごたえやメッセージ性は充分ですが、殺人事件、D病棟の
謎、少女とは誰なのか、と小説としての面白さも決して犠牲にしていない
のが柳さんの凄いところ。
 
 狂気というものは、その渦中に居る時よりもふと我に返った瞬間の方が
恐いのだなあ。そしてその瞬間は新しい狂気への入り口なのか。ミステリ
中心に読書をしているので、小説で扱われる「狂気」にはかなり多く触れ
ていると思いますが、本書で扱われる狂気にはとてもリアリティを感じま
した。辛い描写も多いし、決して「楽しい・面白い」だけの作品ではない
ので、お勧め、とは言えないけれど、私は読んで良かったです。

 星4個。