新世界より 貴志祐介

 SFだとか未来の話だとかいう前知識を持っていたので、サイバーな物語
だと思っていましたが、読み始めるとなんとも前時代的な、昭和の町並み
の如き描写で驚きました。コンピュータとかネットとか出て来ないし。現
文明が行きつく所まで行って破綻した、その先の物語なのですね。

 小説の面白さって「異世界にトリップ」することだったよなあ、とまこ
とに根源的なことを思い出させてくれる作品でした。想像力がおいつかな
い部分もあったけれど、今の日常とは懸け離れた世界を主人公と一緒に走
り抜けることが面白かったです。

 展開が展開だしメッセージ性も強い作品なので、その作品世界に浸るの
は決して楽では有りません。苦痛、重たい、しんどい。途中「あー、嫌だ
嫌だ、この先には嫌な予感がする!」と中断することも何度か。それでも
またページを捲ってしまう。でも、やっぱり不愉快。バカスカ死ぬし、悪
鬼恐いし、とこれだけ人を逡巡させる、そこが貴志さんの凄い所だと思い
ます。この不愉快さはホラー作家としての面目躍如。面白いだけの作品よ
りも絶対こういう負の感情を掘り起こすものの方が心に残るんだよねえ。

 星4.3個。