総統の子ら 皆川博子

 読了し、しばし虚脱状態。

 「死の泉」や「薔薇密室」の様なミステリ部分はありません。念のため。
第二次世界大戦時のヒトラーユーゲントに所属する少年達の物語です。

 ※ヒトラーユーゲントとはナチス党内の青少年組織に端を発した学校外
の放課後における地域の党青少年教化組織。戦局の悪化とともに1944年
に国民突撃隊に併合された。(ウィキペディア調べ)

 物語のスタート時、主人公はまだ少年なわけですよ。それが、成長し、
戦争に出て行く。そこには友情あり、死あり、価値観や時代の変革あり、
使い古されたベタな言葉で言えばまさに「時代の渦に飲み込まれた」少年
達の物語。「アウフヴィーダーゼーエン。天国で」なんて言葉をさ、言っ
ちゃうんだよ!ハタチやそこらの子達が!くぅ〜っ!

 中盤までの成長友情部分は一気読み。そこから戦闘部分を読み切るのに
随分時間がかかってしまいました。愉快な話ではないし、動きがない部分
は淡々としていて30ページも読むと疲れてしまうのです。

 当然現代の我々はあの戦争の結末もヒトラーの最期もドレスデンがどう
なるかも知っていて読んでいるので決して結末へ向けて良い予感はしない
わけで、読んでいて泣かされることも想定していました。でも、あの、終
章に入ったときの、どぅわ〜〜〜〜!っと湧いて来た涙は、人が死んで哀
しいとか、彼等が可哀想とか、そんな単純なものではなかった。やりきれ
なさ、切なさ、息苦しさ、そういう言葉でも説明出来ない。長い長い戦闘
部分を読み切って味わうあのカタルシス。無理矢理言葉にするならば「終
わった」とでもしか言えない。色々なシーンが走馬灯の様に胸に去来。

 もうどんどん「語れる」人がいなくなってしまうあの戦争をこういう形
で後世に残し伝えることが出来る、やっぱり小説って素晴らしい。海外で
も出版して日本人以外にも読んで欲しいなあ。映画にしても良さそうだ。

 うー。読んで良かった。今年は少し軽いミステリを読む冊数を減らして
こういう歯ごたえのある長編をもっと読みたいと思いました。

 星5個。