未明の悪夢 谺健二

 震災の描写が生々しくて凄かった...。

 阪神大震災をテーマにしたミステリ。あの震災を描きたい!という強い
思いに突き動かされて書かれたと思わせる本書。やはり震災の描写は凄ま
じく、外側から見ていたのでは決してわからない被災者の実感がこもった
読みごたえのある実録小説となっています。枚数的にもかなりの割合を震
災描写に割いているし。

 震災が濃密に描かれる割に他の部分では説明不足な点が多いのが難か。
主人公と圭子、刑事鯉口の過去がサラリと数行の説明のみのため、なぜ二
人が恋人でもないのにべったり一緒にいるのかということと、鯉口がこれ
程までに二人を頼りにする事に今一つ納得がいかず。地理的な説明も足り
ない。土地勘がない私には長田がどの位の広さなのかもピンと来ないし、
大坂と神戸の距離感がつかめていないことが終盤の感慨の薄さに繋がりま
した。

 トリックと犯人も結構バレバレです。この人が犯人じゃなかったとした
ら登場する意味がないんだよなあ、という他に何の役割も果たしてないの
に妙にちょろちょろ出て来る人がいるよぅ。笑。トリックは、種明かしを
読んでも、いや、これ、普通に読んだ段階でそうだと思ってましたけど...、
というレベルなので種明かし時の丁寧な図解が無意味で切ない。

 と、難点を色々挙げましたが、この小説にしか出来ない役割を沢山負う
ているのは確か。戦争や災害を語り継ぐというのは重要な事だと思うし。
一読の価値は充分にあります。というか、当事者ではない人達が震災とい
うものをリアルに知るために、読んでおくべきでしょう。

 星3.4個。