冬の旅人 皆川博子

 19世紀末から20世紀にかけて、絵画に熱い想いを抱いて露西亜に渡った
日本人少女環(たまき)の数奇な人生。時代や政情、人間関係、様々なか
かわり合いの中で運命に翻弄され、舞台はペテルブルグからシベリア、そ
してモスクワへと移り変わる。環はふとしたきっかけからロマノフ王朝の
ニコライ二世一家と関わりを深めてゆく...。

 テーマがテーマなので、ほかの作家さんが描いたとしてもそれなりにド
ラマチックになりそうなものですが、皆川さんの筆がもう、凄い、凄すぎ
るの。環の人生が「ぐおおおおん!」とうねる音が聞こえた様な気がしま
した。

 小説ではあるのものの、ある程度は史実を元にしているので、読者は結
末を知って読むわけです。残りのページ数からロシア革命で終わるのだろ
うなって想像もつく。わかっていても、読む手を止められない。ニコライ
一家の最後を環はどういう形で知るのか、後半の牽引力は物凄いです。皆
川長篇の中では一番引っぱるかも。終盤の緊張感はとてつもない。ラスト
の山場を読んでいて、なんか苦しいな、と思ったら、暫く息をするのを忘
れていました。ゼハー、ゼハーーー。


 後書きで連載時に宇野亞喜良画伯が挿し絵を描いていたことを知り、身
悶えしました。見たかった〜!!!挿し絵も単行本に収録して欲しかった
よう〜〜〜!!

 星5個。

 ちなみにロシア物といえば島荘の「ロシア幽霊軍艦事件」。こちらも猛
烈にお勧めの大傑作ですよ〜。