妖かし蔵殺人事件 皆川博子

 皆川さんは歌舞伎のお話も書いておられるのですよね。ついもともと好
きなもんでドイツものに惹かれてしまうけれど、和ものも読んでおこ。

 これ、今読んで良かったなあ、と思います。巨大な鯉と勇者が水中で格
闘する立ち廻りが作中劇で登場するのですが、まさに先月国立劇場で菊之
助が鯱と水中で格闘、っていうのを観たばかりなので、それはもう鮮やか
にイメージがうわわわわっ!と広がりました。私の脳内ではこの作中劇、
リアルに動画ですよ!

 タイトルに「殺人事件」とつくところからも解る様に80年代、古めの作
品です。今世紀に入ってからの凄みのある重厚な皆川作風ではなく、さら
りと読める構成とページ数。でも、華麗な舞台の描写や、楽屋の白粉の香
り、黴臭さやしん、とした空気の重さを感じる小道具蔵、そこかしこにそ
の後の皆川文学の片鱗が見て取れます。

 星3.6個。