天霧家事件 太田忠司

 あら、珍しい。俊介不在の俊介シリーズです。

 俊介と美樹ちゃんが夏休みで旅行中。一人残る野上さんのもとへやって
くる依頼人。全編に漂う、おっとなー!な雰囲気が別シリーズを読んでい
るかの様。地味というか渋目で、俊介ものは大人も読めるジュブナイル
と思うのですが、野上さんが主役になると洋モノハードボイルドの様な雰
囲気もある。野上さんという人物をより深く知りつつ推理もじっくり楽し
める一冊。

 野上さんを知る、というよりは野上さんが動きだしたのかな。太田さん
の中で彼が俊介の保護者として脇役でいるだけでは収まり切らなくなって
きたのかもしれません。藤森涼子もですが、太田さんのキャラクタ達には
ちゃんと命があって息づいている気がするのです。

 あえて別シリーズやスピンオフとはせずに俊介シリーズの一冊として出
したところに意図があるのでしょう。それでもやはり最後に俊介とジャン
ヌが旅行から帰って来たらホッとしました。俊介も野上さんも『紅梅』も
全て含めて俊介シリーズなのね。だからたまには俊介不在の事件があって
も、良いのです。

 星3.7個。