ゴールデンスランバー 伊坂幸太郎

 やはり伊坂さんは文学的。ストーリーとしては青柳君、逃げる逃げる逃
げる、なので他の作家さんが書いたらドキドキパニックスピーディーノベ
ルになりそうだけど、そうはならないところが伊坂節。要所要所で物語は
他の登場人物へと分岐したり過去へ戻ったり。

 車のバッテリーのエピソードやマンホールと下水道の使い方が伊坂さん
らしくて良いです。花火の登場も画的にすごく素敵。映像がパッと浮かぶ
ものね。伊坂作品がたびたび映像化されるのが良くわかる。場面場面が映
画的で、撮りたくさせる。映画人心をくすぐるのだと思う。

 色々と考えさせられました。マスコミと権力がタッグを組んだら何だっ
てどうにでもねじ曲げてしまえることの怖さ。自分で判断するための根拠
すら他者のフィルターを通して与えられているものなんだもんなあ。街頭
カメラ問題でよく監視社会の是非が論じられるけど、監視カメラ映像だっ
てデジタルであれば改ざんが可能。万が一権力とマスコミが悪意を持って
民衆を煽動しようとしたら我々は何を信じればいいのか、どう判断してゆ
けば良いのかね。

 星3.7個。