午前零時のサンドリヨン 相沢沙呼

 日常の謎、学園物、恋愛風味、と私の守備範囲ではない単語がずらずら
並ぶ本書。唯一守備範囲なのは鮎川哲也賞という部分なのだけれど、これ
またなんとも鮎川賞っぽくない一作なのでした。

 探偵役の高校生マジシャン酉乃がものすごく魅力的。まずマジックとい
う小道具の使い方がとても良いし、そっけない態度もツンデレブームの昨
今正当派。そして序盤では語り手の須川少年より圧倒的優位に立つかに見
えた酉乃の弱さがだんだんと見えて来る構成が上手い。連作短編で一つ一
つの事件を解決してゆく小さな起伏の裏側で須川と酉乃の関係とか酉乃の
コンプレックスなど繋がった物語の大きな流れが巧妙に作られているので
す。

 と、褒める一方で巧妙故の惜しい点も有り。技巧的に上手く纏っている
だけに体当たり的なリアルが薄いというか小手先感があるというか。この
手のものって大抵主役女子の性格が似ているので既読感もあるしなあ。と
はいえ、小手先だろうが真似だろうが何だろうがこれだけ魅力的で読ませ
るものを書ければ充分プロの域、とは思います。

 蛇足な余談ですが、このジャンルに関して私はもう飽和感を持っていま
す。小市民、ソムリエ、少女ノイズ、と傑作佳作も充分あるし、等身大に
感情移入出来る世代ではない非学生の私としては高校生探偵が校内で謎を
解く学園物はもうお腹いっぱい。霧舎学園の様に本格系切り口であったり、
密室とか連続殺人とかバズーカ義手探偵なら好物の別腹なのでいくらでも
食べられるんだけどな〜。

 星3.8個。