玻璃の天 北村薫

 何度トライしてもいまいちピンと来なかった北村薫。漸くこれ!という
ものに出会えました。このシリーズ、いいわあ〜!

 昭和初期のお金持ちのお嬢様英子とお抱え運転手ベッキーさんが謎を解
く短編集。知的好奇心旺盛でおませな英子も可愛いし、ベッキーさんがこ
れまた不思議。頭の回転が早いだけではなく、かなり高等な教育を受けて
いる様子が垣間見える。そんな彼女が何故運転手をしているのだろう。

 事件と謎解きも面白いし、表題作の建築やステンドグラスをからめた謎
は画的な美しさまである。そして事件の周囲の小ネタがいちいち知的で味
わいどころが盛り盛り。昭和初期の上流階級の社会、生活も興味深かった
です。

 本書を読んでいて強く感じたのは、この時代知性はお金や権力と同じ位
重視される財産だったのだということ。英子も未訳の原書を読んだり年上
の人と積極的に会話をしたり、知ることに貪欲。英子の親達は晩餐会の余
興に講演会を開催したり、ゲストを政財界から招いて交流したりしている。
余暇はレジャー、楽しく遊んで飲み食いすれば良し、ではなかったのだ。

 星3.9個。

 作品とは関係ない点だけれど「想夫恋」の扉絵のお琴が変で気になりま
した。弦が12本だし素手で弾いている様に見える。