球体の蛇 道尾秀介

 これまでの流れをご存知ない方のために軽く説明しておきますと、私は
道尾氏と相性が悪い事を自覚、公言しております。デビュー作の「背の眼」
こそ気に入ったものの、その後何を読んでもその巧さに感心はするものの
それほどノレず、道尾道からは撤退、読んでも感想は書かないかも宣言を
したのが前回。

 そして迎えた本書。何の思い入れも期待も持たず挑んだ本書がなかなか
良かった。サプライズはあるもののミステリ度は薄く、むしろ人間ドラマ
というべきか。道尾君は月9の原作も書いたそうだし、今後ミステリ寄り
じゃない方向に行きたいのかな、と思いました。

 本作は過去の道尾作品と比べてもう一歩作者がおりて来てキャラクタの
人生に踏み込んだ感があったのが良かった。今まではどこか高みの見物感
があったのよね。広げた風呂敷をたたんだけれどもそれほどきれいにたた
めていない、そんなざっくり感も好印象。過去の巧いと言われる作品達は
あまりに巧みにさらっと美しくたたみすぎて、私はその巧さに白けて、と
いうか退いてしまっていたのかなあ、と思いました。だからミステリ的な
仕掛けものからちょっと離れた本書が受け入れられたのかも。

 星3.8個。