仮面幻双曲 大山誠一郎

 舞台は昭和二十年代。双子の弟が整形手術を受けて別の顔になって自
分を殺しにくる、と身辺警護を依頼してくる兄。序盤を読んだだけで期
待が大きくなってしまういかにも自分が好みそうな設定。

 謎解きは細かく考えられていてなかなかの良作ではありますが、なん
だか惜しい作品でした。

 まず、せっかくの時代設定なのに文面から時代の空気感が全く漂って
来ない。読んでいる間は普通に現代モノを読んでいる気分。なので時々
思い出した様に「出征」なんて単語が出てくると、わっ!そういえばこ
れ昭和二十一年だった。といちいち驚く。これに比べるとずいぶん今風
に誇張、アレンジされた昭和だと思っていた京極堂はちゃんと昭和だっ
たんだなー。

 そして致命的なのがチャームに欠けるということ。探偵も印象薄いし
事件が起こる一族、使用人達も正直どうでもよい。物語の展開も登場人
物の魅力不足を補うに足る面白さはなく。読みやすさで最後まで引っ張
るけど読みづらい文章だったら挫折コースですよ。

 困ったねこれ。ほんともったいない。トリックは良いのになあ。

 星3個。