闇の喇叭 有栖川有栖

 これは凄いなあ。なにが凄いってこのテーマをMYSTERY YA!レーベルで書いた
ことが凄い。

 舞台は平世(平成ではなく)21年の日本。召和(昭和でもない)に起こった第
二次世界大戦では三つ目の原爆が京都に落とされ、ソ連支配下におかれた北海
道は日本から独立、とまあこういったパラレルワールドな設定。私はもともとこ
ういうネタが好きだし面白かったけれど、私だってこれ系のテーマ、戦争や政治、
思想の弾圧等に興味を持ったのは30代になってからであって到底いまどきのヤン
グアダルトがこのテーマに興味を持つかと問われればごく一部の人達をのぞいて
は否と言えるでしょう。

 それをあえて今このゆとり教育世代に向けて有栖川さんが書いたことの意味。
そこにものすごく強いメッセージ性を感じました。若者よ、書を読めよ、もっと
政治について考えようよ、戦争や歴史に興味を持とうよ、と。言い方を変えれば
危機感なのかな。本は読み手が居なければ価値がないわけで、果たして未来の読
み手がきちんと育っているのか?という。

 ミステリとしてはとてもYA!向け。基本のキですね。でもそこにも色々考えさ
せられるネタが盛り込まれていて、本書が売れるかというと難しいだろうなあ、
と思いますが、良書だと思いました。甘ったるくない終わり方もとても好きです。


 星3.8個。