幻視時代 西澤保彦

 あー、幽霊?そっか。西澤さんだもんね。幽霊のひとつやふたつ出て来てもお
かしくないか、と幽霊の存在をまるっと受け入れて読み始めたけれど、中盤以降
は驚く程あっさりとした普通の過去回想もの。ファンタジックやホラー要素は思
いのほか薄かったです。そっちサイドではなくタックものの様な推理合戦系列。
『収穫祭』でエログロにげんなりした人でも安心して読める出来です。

 謎も謎解きも面白く読みましたが、会話で読ませる推理合戦をノンシリーズで
やるのは難しいと感じました。同じ事をタックやボアン先輩が展開すれば、それ
ぞれのカラー、性格、人となりが既にわかっていて頭の中に彼らが動いている状
態で読むので生き生きと面白い。しかし主役というには弱い本作で初めて出会っ
た主人公とそれまで登場の少なかった後輩、中盤以降に登場したこれまたどうい
う人なのか読者にはよくわかっていない編集者の推理合戦、正直誰がどの推理を
して誰がどう纏めたのか、誰の推理が当たるのかがどうでも良いというか、さほ
どそこに興味が持てないというか。それでもここまで読ませるところが西澤さん
の手腕なのですが。

 星3.5個。