狂乱廿四孝 北森鴻

 突然の訃報からもう一年経ったんですね。北森さんの鮎川哲也賞受賞作です。

 先日皆川さんの『花闇』を読んだ際に三世澤村田之助の事をウィキペディア
調べていたら関連書籍に本書の名前がありました。北森さんも田之助を書いてい
たのか!盲点!あわてて図書館に走りました。

 自分の中で江戸と明治ってとても違う時代だったのですが、本書に描かれてい
る世界はとても江戸っぽい。そりゃそうだよなあ、御一新だの東京だのと言われ
たって人々の気持ちはそうそう急には変わらない。明治って江戸と繋がっていて
明治に暮らす人々の中にはまだまだ江戸イズムが色濃く残っていたのだ。これは
『暁英』を読んだ時も強く感じた事。そういう時代の空気感をデビュー作の時点
でこれだけ描けているのが凄いと思いました。

 田之助の壮絶な生涯に焦点をあてた『花闇』に対してこちらは田之助の周辺で
起こる怪事件を戯作者河竹新七の弟子・お峯ちゃんが究明しようと奮闘、という
ミステリーらしい仕上がり。やはりデビュー作だけあって、転換がなめらかでは
ない部分や説明不足でわかりずらい部分もありますが歌舞伎という世界を生かし
た謎も登場人物達もとても魅力的で楽しめました。

 『狂乱廿四孝』に始まった北森さんの作家生活が未完の『暁英』で終わったと
いうことに気付いた瞬間震えてしまいました。あまりにも美しい形すぎて哀しす
ぎて、そこに運命的な何かを感じます。ある意味作品よりもドラマチックではな
いですか。

 星3.8個。