ベイジン 真山仁

 ぶ厚い上下巻だけれど改行多めで文章も読み易くスルスル一気にいけます。想
定した程の時間は全然かからないので、興味はあるけれど厚さに尻込みしている
という人は是非トライすべし。

 北京オリンピックに沸く中国での原発建設に奔走する日本人技師と党要人の汚
職摘発を計画する中国共産党員の物語。読んだのが今でなければ男二人の関係が
どう変化してゆくのかとか、オリンピックの記録映画を撮る女性映画監督の物語
とか、中国ってこういう国か!こういう国民性なんだ!とか党員の政治的な画策
等のアレコレが読みどころだったと思うのです。

 が、今読んだらこれはもう原発の物語以外の何ものでもない。原発が危険な方
へと走って行く不安、ヤバいことになってからの描写が震災直後の福島原発とか
ぶる。311以降の報道で知った状況が物語の筋に沿って展開してゆく様には震え
が来ます。福島原発の震災直後のホワイトボードの画像がテレビで公開された際
SBOって書いてあったのが印象的でした。それは電源が落ちたということだとア
ナウンサーは説明していたのですが、「電源が落ちた」と言葉で聞くよりこの小
説を読んだらリアルにSBOって、ステーションブラックアウトって、電源が落ち
るって要するにどういうことなのかが迫って来ます。

 結末がこの時点なことが賛否両論の様ですが、私はこれで良いと思いました。
この先を詳らかに書いても作品として得られるものよりも出版に対して圧力がか
かるのではないか、という点でリスクの方が大きいと思うので。ここまででもよ
くぞ書いたと感じます。

 星4.2個。