さよならドビュッシー 中山七里

主人公が女子高生という予備知識と可愛らしい色合いの装丁からてっきり流行の
高校生探偵によるゆるい日常の謎系かと思っていましたが、いきなりの壮絶な展
開で驚きました。今まで良さがわからなかったり挫折続きだったりで自分とはと
ても相性の悪い賞という印象だったこのミス大賞。第八回受賞の本作はバチスタ
以来二度目の面白かった!と満足出来る一作でした。

いやはや!びっくり!!なかなかショッキング。このくらい見破れよ!と自分に
ツッコミを入れた真相にも驚いたし動機にも納得。岬先生のキャラもとても良い。
あの状況(350P)で「僕には何の関係もない」って言える人、素敵だ。ニート
の叔父さんの描き方も優しさがあって単なる類型的な見下されキャラになってい
ない点に感心。

バチスタの海堂さんと同じく、自分の専門分野にさしかかると読者を置いてけぼ
りにして筆がノッてしまうという感じ。ピアノや音楽の素養がない私は「変ホ長
調は一旦ハ長調へ移調し、更に変イ長調ホ長調と三度下に移調しながら反復す
る。」等と言われても正直ポカーンだし、ここ、ついていけてなくても謎解きに
は関係ないよね?てか謎解きに関係なければ読むのメンドクセ、と思ってしまう
のですが、この作者のピアノ描写への熱さは決して不快ではありません。若干面
倒だけど本当にこの人ピアノが好きなのねえ、と好意的に受け止められる真摯な
書き方。読者の知らない事を書いても決してそれが「読者に教える」という上か
ら目線じゃないからかな?

297ページの「現代は~」の岬先生の台詞がとても鋭い。久々に小説を読んでい
て抜き書きしようという台詞に出会いました。下ーの方に引用するので興味のあ
る方はスクロールしてどうぞ。

星3.8個。

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<以下引用>
現代は不寛容の時代だ。誰もが自分以外の人間を許そうとしない。咎人は極刑を、
穢れた者、五体満足ではない者は陰に隠れよ。周囲に染まらぬ異分子は抹殺せよ。
今の日本はきっとそういう国なんだろう。いつ頃からか社会も個人も希望を失っ
て皆が不安がっている。不安が閉塞感を生み、その閉塞感が人を保身に走らせる。
保身は卑屈さの元凶だ。卑屈さは人の内部を腐食させ、そのうち鬱屈した感情が
自分と毛色の違う者や少数派に向けられる。彼らを攻撃し排斥せよとする。そう
しているうちは自分の卑屈さを感じなくて済むからだ。立場の弱い者をいじめた
り差別するのも多分にそういう理由だろう。不正を糾弾された人間に問答無用で
罵声を浴びせる、頂上を極めた者の転落を悦ぶ……全部、同じ構図だ。無関係な
人間には再現なく悪意が降りかかる。(後略)
<引用終わり>